『 ウチ ― (2) ― 』
「 え ジョギング ですか??? 博士が?? 」
フランソワーズは まじまじと博士の顔を見つめてしまった。
広い額には汗が滲み、全体に赤味を帯びている。
「「 わ〜〜い 」」
チビ達は 博士を玄関までお迎えにゆき ― リビングに戻るなりコタツに
潜りこんでしまった。
温暖な地域の郊外 というか 町外れに建つギルモア邸。
その家では ご隠居さん と見られる白髪・白髭のご老人と若夫婦 ・・・
そして双子の子供たちが暮らしている ―
彼らは ごく普通に町の人々とも交流し、 ごく普通に、時にはちょいと古風な
暮らし方を選び 穏やかな日々を送っているのだ。
「 いやあ〜 ・・・そんな顔でみないでおくれ。
ニンゲン 脚が弱ったら最後、というからなあ。
特に ウチの前の坂、 あそこを上れなくなったらワシはお終いじゃ 」
「 それは ・・・ その時は方法を考えますわ。 いろいろ補助器具があります、
ええ なんだって作って 」
「 いやいや ワシは出来る限り長く自分自身の脚を使うぞ!
その方が頭脳の衰えも防止できる ・・・ と思う 」
「 博士 ・・・ 」
「 さあさあ そんな顔はもう止め。 ふ〜 汗だらけじゃ、ちょいと顔を洗ってくるよ 」
「 あ フレッシュなオレンジを絞っておきますね 」
「 ああ 冷たいお茶をくれるかな? 」
「 はい 美味しいのを淹れておきますね 」
「 ありがとうよ どれ 」
博士は足取りも軽く バス・ルームに出ていった。
「 ねえ すぴか すばる。 おじいちゃまがおっしゃったこと 聞いた? 」
「「 うん 」」
「 ジョギングですって。 だれかさんはコタツにへばりついているのにね〜〜〜 」
「 う ・・・ あ アタシ。 お外 ゆくっ! 」
いつも思い切りのいい すぴかが ば・・・っとコタツから飛び出した。
「 ひゃ ・・・・ さむ 〜〜〜 」
「 そりゃそうよ。 ほら、 これ着て? 」
ぽさ。 お母さんは編み上げたふわっふわのマフラーをすぴかに掛けてくれた。
「 うわ♪ あったか〜〜〜〜〜 」
「 温かいでしょう? 出来たてのほやほや。 はい これは手袋ね 」
「 きゃわ♪ ん〜〜〜 あったか〜〜 アタシ、お庭の花壇にお水 あげて
くるね〜〜 」
「 ありがとう。 あ その後でね 裏の温室からプチ・トマト と サラダ菜を
摘んできてちょうだい。 晩御飯に使いたいの。 」
「 うわ〜〜〜い♪ アタシ、 ぷち・とまと 大好きぃ〜〜〜 」
「 ふふふ ・・・ あ もしね イチゴが赤くて美味しそうになっていたら
摘んできていいわよ。 」
「 きゃわ♪ イッテキマス〜〜 」
すぴかは ちょんちょん跳びつつお庭に出ていった。
「 すばる君は? 」
まだコタツで本を広げて居る息子に 母は声をかけた。
「 え? 僕 ・・・ この本 読みたいんだもん。 」
「 そうねえ。 すばる君にも新しいマフラーと手袋、編んだのよ? 」
「 え ・・・そ そう?? 」
「 そうよ。 ほら。 < 恐竜色 > で ふかふかよ〜〜 」
「 う ・・・ ? 」
「 すばる君に頼みたいことがあるの。 」
「 僕 ・・・ ぷち・とまと も さらだ菜 も いらないよ? 」
「 あら。 それはすぴかのお仕事。
すばるクンにはね 下の商店街まで行ってね、生クリーム 買ってきてくれる 」
「 な なまくり〜む??? お母さん ケーキつくるの?? 」
「 う〜ううん ケーキじゃないけど。 今晩のデザートに使うの。 」
「 でざ〜と?? なまくり〜むの? 」
甘いモノ好きのすばるは お目目きらきら〜〜だ。
「 そうよ。 すぴかがイチゴを摘んできてくれるわ。
イチゴと生クリームのデザートよ。 ねえ すばる君、おねがいできるかしら。 」
「 ― 僕 行ってくるっ ! 」
ばふ。 すばる は コタツから離脱した。
「 はい マフラ― と 手袋。 ダウンジャケットも着ていってね。 」
「 ウン。 僕もはしってくる〜〜 おじいちゃまみたいにっ 」
タカタカタカ〜〜〜〜〜 すばるは 玄関から駆けだしていった。
「 さすが お母さん だのう 」
「 うふふ・・・ あ お茶 どうぞ 」
「 ありがとう。 ん〜〜〜〜 ああ 美味しいなあ 」
「 頂きものですけど・・・ いいお茶は本当に美味しいですよね。
ジョギングってこの近辺を巡っていらしたのですか? 」
「 うむ。 ちょいと海岸の方にも足を伸ばしてみたがなあ
日溜りには水仙の花が盛りじゃったよ。 」
「 まあ もう? この国の水仙って大好きなんです。
すぅ〜〜っと 冷たいみたいな甘い香りがして・・・
ああ 寒い寒いと思ってましたけど 春はもうそこまで来ているんですね 」
「 そういうことだな。 でもまだ寒い日もあるさ。
そんな日にはチビさん達にコタツを解放しておやり。 」
「 はい。 ふふふ ・・・ 実はね〜 わたし、コタツ大好きなんです。
二ホンに住めて本当によかった〜〜って思うくらい。 」
「 まあ な。 たしかにコタツは最高じゃが・・・
最高すぎてちょいと麻薬的な魅力があるな。 ず〜〜〜っと填まっていたくなり
仕事や勉学の効率は著しく低下する。 」
「 そうなんですよね 」
「 ま チビさん達にはせいぜい元気に外で遊んでもらうとしよう。 」
「 はい。 週末にはジョーに連れ出してもらいます。 」
「 それはいいな。 そうだ、すばると昆虫観察にでも行くかな 」
「 え この季節に ・・・ 昆虫 います? 」
「 裏の雑木林になあ 木の洞 ( うろ ) や 落ち葉の下に
潜んでいるのを見るのも楽しいからな 」
「 あ な〜るほど ・・・ お願します。 わたしにはちょっと・・・ 」
「 あはは ワシに任せておくれ。 」
「 はい。 」
「 おか〜〜さ〜〜〜ん! ぷち・とまと 〜〜〜 いっぱい〜〜〜 」
勝手口から すぴかのキンキン声が響く。
「 あら 収穫隊がもどってきたわ。 すぴかさ〜〜ん ありがとう 」
フランソワーズはぱたぱた・・・ キッチンに駆けて行った。
― はたして ・・・ すぴかは山盛りの籠を持ち上げている。
「 ほら〜〜〜 みて! 」
「 どれどれ? わあ〜〜〜 いっぱいねえ 」
「 ぷち・とまと、いっぱい赤くなってたよ〜 おいし〜の〜〜 」
「 あ ・・・ つまみ食いしたな? 」
「 ・・・ あ あじみ! 」
「 まあいいわ。 ホントに美味しそうねえ すぴかさん、選ぶの上手ね 」
「 えへへ ・・・ あ イチゴもあったよ、ほら ここ! 」
「 まあまあ ・・・ こんなに赤くなってたのねえ 」
「 おんしつ あったかいね〜〜 イチゴ、すご〜〜くいいにおいだった 」
「 おいしそう! ね、これ 今晩のデザートにするの。
すぴかさんの摘んでくれたイチゴに 生クリームかけて 」
「 わお♪ あ ・・・ お砂糖さあ ・・・ 」
「 大丈夫。 すぴかさんのにはいれません
」
「 わい〜〜〜〜 あれ すばるは? 」
「 お買い物。 生クリームを頼んだの。 」
「 へ〜〜〜 すばる、コタツが好きなのにね 」
「 デザートのハナシしたら 跳んでいったわよ 」
「 あははは 」
「 すぴかさん、さ 手を洗ってらっしゃい。 宿題は 」
「 宿題はやったってば さっき。 」
「 ああ そうだったわね〜 じゃ コタツに入ってていいわよ 」
「 え あ う〜〜ん ・・・ おか〜さんのお手伝いする、アタシ。 」
「 まあ ありがとう。 キッチンは ほら温かいでしょ?
ず〜〜っとことこと・・・お肉とお野菜を煮てるのよ 」
「 ウン ・・・ あ〜〜〜 いいにおいだね〜〜 」
「 でしょ? じゃあ すぴかさんにはサラダの準備を手伝って? 」
「 うん♪ あ ぷち・とまと? 」
「 そうよ たくさん摘んできてくれたから。 」
「 アタシ、ぷち・とまと 大好きだもん。 おいし〜よ〜 」
「 そうよね〜 それじゃキュウリとサラダ菜をつかって 」
「 僕が 切る〜〜〜〜〜〜 !! 」
だだだだだ ・・・ ! 珍しくもすばるが駆け込んできた。
「 すばる?? どしたの〜〜〜 」
「 僕が切る! きゅうりは僕が切るから ! 」
「 お帰りなさい すばる。 」
「 はふ〜〜 あ! はい これっ ! 」
バサ。 すばるは買い物袋をお母さんに押し付けた。
「 なまくり〜む! 」
「 はい ありがとう、すばる君。 おつりは・・・ ああ これね 」
「 そ! 僕 きゅうり 切るからっ! 」
「 はいはい お願いします 」
「 きゅうり 〜〜〜 ! 」
料理少年・すばる は どたばた〜キッチンに駆けこんだ。
「 へえ 〜〜 それじゃ このサラダとデザートはチビ達の作品 ってことか 」
その夜、遅い晩御飯の食卓で ジョーは相好を崩した。
「 そ。 あ ポトフはどうだった? 」
「 も〜〜〜 最高さ♪ じんわ〜〜り味が染みてて・・・肉もほろほろでさ 」
「 ふふふ・・・ 高いお肉じゃなくてもゆ〜っくり煮ると美味しくなります 」
「 うんうん ・・・ サラダもデザートも あ〜 美味かったあ〜
も〜〜〜 ウチの晩御飯は最高だな〜〜〜 」
「 まあ〜〜 ありがとう。 そう言っていただけて ぺろりキレイに平らげて
もらえるって 本当に幸せだわ 」
「 だってさ 本当に美味しいんだもの。 きみの手料理に すぴかが摘んで
くれたイチゴに すばるが 買ってきた生クリーム・・・ ああ なんて贅沢♪ 」
「 ずいぶん ささやかな贅沢ね 」
「 ねえ 知ってる? この晩御飯はさ〜〜 世界でたったひとつ。
ぼくのためにぼくの家族が作ってくれたんだぜ? これって最高だよ〜〜 」
「 ・・・・ 」
フランソワーズはじっと彼女の夫を見つめていたが す・・・っと立ち上がると
ちゅ。 淡く彼の唇にキスをした。
「 わほっ ・・・ あ〜〜〜 最高 ・・・ 」
「 うふふ ・・・ ジョーがわたしの夫で本当に幸せ 」
「 えへ? そ そう ・・・? 」
「 ええ ・・・ Merci
Je t’aime ・・・ 」
「 ・・・ ぼくも さ♪ 」
「 すぴかとすばるがね〜〜 お父さんに感想、聞いておいてって。 」
「 感想? あ〜〜 いちごくりーむの か? 」
「 そうよ。 」
「 ふ〜〜ん ま あした、直接言うよ。 ゆっくりおしゃべりしたいし 」
「 ありがと、 ジョー 」
「 ぼくの最大の癒しだもんな〜 チビたちの笑顔、見れば疲れなんか吹っ飛ぶよ。
あ そうだ 週末はチビ達を外に連れだそうか 」
「 二人とも喜ぶわ〜〜 お願いね 」
「 任せてくれよ。 で♪ 今夜、ぼくの最大の癒し〜〜 は っと 」
ジョーは 彼の細君を引き寄せた。
「 き み が食べたい♪ 」
「 ま ・・・ こんなトコでお行儀が悪くてよ 」
「 ふ〜ん それじゃ 」
ひょい、と彼は彼女を抱き上げる。
「 あん ・・・ あ キッチンの後片付けが 」
「 ん〜〜〜 それじゃ ぼくが たっとやるから〜〜〜 」
「 うふふ メルシ。 じゃあ わたし シャワーしてくるわ 」
「 そのまんまでいいよぉ〜〜〜 」
「 そうもゆきません、 これはね〜〜 レディとしての心得なの。
ふふ ・・・ ちょっと待っててね〜〜 」
ちゅ。 彼女はジョーの唇にまたまた小さなキスを落とし さっと消えた。
「 ちぇ〜〜 ・・・ おし! 片づけるぞ〜〜 かそくそ〜〜〜ち! 」
一人笑いをしつつ ジョーは張り切って夕食の後片付けを始めた。
真冬でも 二人は あつ〜〜〜〜い夜 を送った。
「 おはよ〜〜 おか〜さん。 あ! おと〜さんも〜〜〜 」
土曜の朝 すぴかはリビングのドアをあけ ― 歓声をあげた。
朝陽いっぱいの窓際で ジョーが体操をしていた。
「 おはよう すぴか。 相変わらず早いね〜 」
「 えへへ おと〜さ〜〜〜ん えいっ 」
「 ほいっ 」
お父さんッ子のすぴかは ぴょ〜〜ん ・・・とジョーに飛びついた。
「 あは〜 ちょっと重くなったかな〜〜 」
「 おと〜さん 肩車 してえ〜〜 」
「 肩車かい? いいよ ほら 」
「 わい(^^♪ 」
ジョーは ひょいっと娘を肩の上座らせた。
「 きゃわ〜〜〜 (^^♪ たっか〜〜い〜〜〜
おと〜さん おはよ〜〜〜 」
「 なんだ 今頃? そうか 高いかい 」
「 ウン♪ アタシ 高いトコ だいすき〜〜 ね〜 このまんま おにわに
いって〜〜〜 」
「 え〜 それはどうかなあ 」
「 すぴかさん。 お顔は洗ったの? 」
フランソワーズは にこにこ・・・キッチンから声をかけた。
「 うん あらった〜〜 ぷるん ぷるぷる〜〜 」
「 そう それならちょっとお父さんとお外に行ってらっしゃい。
おじいちゃまもジョギング中だし ― 皆が戻ってきてから
朝ごはんにするわ 」
「 わい〜〜〜〜〜 ♪ おと〜さん このまんま じょぎんぐ できる? 」
「 え〜〜 すぴかをのっけたまま?? 」
「 ウン アタシ らくちん〜〜 」
「 寒いぞぉ〜〜〜 高いトコは。 このまま庭を一周して
それから一緒にジョギングしようよ? 」
「 うん いいよ〜〜 そんでね〜〜 帰ってきてから なわとび しよ! 」
「 縄跳びか いいぞ 」
「 えっへっへ〜〜 アタシ、なわとびめいじん だからね〜〜 」
「 お そうかい? それじゃお父さんと勝負しようじゃないか 」
「 おっけ〜〜〜 じゃ お庭、ゆこ! 」
「 へいへい ぼくのお姫サマ ♪ 」
「 ふふふ〜〜〜ん♪ 」
ジョーは 娘を肩車したまま、ハナウタを歌いつつテラスから出ていった。
「 あ〜らら・・・ 後で後悔するわよ〜〜 」
「 それは すぴかが、かい? 」
後ろから張りのある声が聞こえた。
「 あら 博士? お帰りなさい、今朝のジョギングは如何でした? 」
「 うん 海岸を少し走ってきた。 朝の海は 気分がいいのう ・・・
こう〜〜 新しいエネルギーが たっぷりと頭脳にも身体にも入ってくる 」
「 まあ 」
「 朝のジョギングは心身ともに有益だな。 」
「 ふふふ ・・・ オレンジが冷えてますわ、どうぞ? 」
「 ありがとう。 ちょいと汗を流してくるよ 」
「 はい。 あら? 」
ことん ことん ことん ゆっくりした足音がしてドアがあいた。
「 おっはよ〜〜〜 おか〜さん あ おじ〜ちゃまも〜 おはよう 」
「 おや すばる。 起きてきたかい。 さあ ワシと一緒に顔を洗って
朝ご飯にしよう 」
「 うん! おじいちゃまもいま おきたの? 」
「 いやいや ワシはもうジョギングをしてきたぞ 」
「 ぇ〜〜〜 すご〜〜〜 」
「 すぴかもなあ 父さんと一緒に走りにいったぞ 」
「 へえ〜〜 僕は・・・ いいや。 」
「 いいや? 走らないのかい 」
「 ウン。 僕 〜〜 お母さんのお手伝い、する〜〜 」
「 すばる君? おはよう。 まず 顔を洗っていらっしゃい。
ご飯は お父さんたちが帰ってきてからよ 」
「 あ うん 」
すばるは とてとてとて・・・・ のんびりと顔を洗いに行った。
「 ふふふ ・・・ 相変わらずじゃのう 」
「 ええ。 コタツを仕舞ったのが嫌みたいです 」
「 まあ アレは気持ちいいからな。 すばるは寒がりか 」
「 というか 外を走るのはあんまり〜〜 なんでしょうね 」
「 ふ〜ん ・・・ おっと すばる〜〜 一緒に顔、洗おう。 」
博士は 急ぎ足でこののんびり孫息子を追った。
ほどなくして戻ってきたが 博士はコートを手にしていた。
「 ちょいと出てくる 」
「 あら 今 お帰りになったばかりなのに 」
「 うむ すばると一緒にな。 裏山までじゃ。 ジョーとすぴかが帰るまでには
戻るよ 」
「 はい いってらっしい。 すばる〜〜 マフラー と 手袋、
忘れずに 」
「 う うん ・・・ 」
「 ほれ 行くぞ〜〜 」
「 う うん 」
すばるは 慌てて博士を追いかけていった。
「 うふふ・・・ それじゃ〜 とびきり美味しい朝ご飯を用意しておきましょうか。
えっとオムレツに熱々のトースト、 ジョーはご飯ね〜〜 あとは・・・っと 」
フランソワーズは エプロンのヒモを結びなおした。
「 ふんふん〜〜 ♪ うん ? 」
リビングを出かけた彼女の脚が ふっと止まった。
「 あらら? 」
窓に近づきしげしげと見上げた。
「 ・・・ やっだ ・・・ 暮れの大掃除、しっかりしたはずなのに ・・・ 」
おし。 この家の女主人は ぐっと腕まくりをした。
「 ん〜〜〜 窓 拭くわ! もっとお日様の光がい〜〜〜っぱい入るように!
コタツに潜りこまなくても温かく過ごせるように !
えっと バケツとガラス・クリーナー、 持ってこよっと。
そして レッスンよっ わたしも身体を動かさなくちゃ 」
ふんふんふ〜〜〜〜ん ♪♪♪
ほどなくして リビングは最高のサン・ルームとなった。
「 ただ〜〜いま〜〜〜〜〜 おなかすいたぁ〜〜〜 」
「 ・・・ただいま 」
すぴかがちょんちょんしつつ テラスから入ってきた。
「 ? わ〜〜〜 あったかいね〜〜〜 このお部屋。 ね〜 お父さん 」
「 うん? ああ そうだねえ 戻ったよ、フラン 」
「 あ お帰りなさい〜〜 すぴかさん、手 洗ってきて? 朝ご飯よ〜 」
「 うん! ね〜 おか〜さん、 アタシ、 おと〜さんにかったよ〜〜 」
「 かった? 」
「 そ! なわとび競争! アタシのが はやぶさ いっぱいできたよん♪ 」
すぴかはもう大はしゃぎだ。
「 まあ すご〜いわね〜〜 」
フランソワーズはジョーを振り返る。
「 そうなんだ ・・・ すごいよ〜〜 すぴかは ・・・ホント ・・・ 」
「 まあまあ それじゃ朝ごはんの時に報告してね すぴか。 」
「 うん!! あ〜〜〜 おなかぺっこぺこ〜〜 」
彼女はバス・ルームまで すきっぷ・すきっぷだ。
そんな娘を眺めつつ フランソワーズはジョーのパーカーを 引っ張った。
「 ねえ ・・・ 手加減してやったの? 」
「 い〜や。 ぼくは本気だったんだ・・・ でも あのワザは ・・・
はやぶさ をあんなに軽々連続するのは オトナには無理だよ 」
「 へ え・・・ 009 なのに? 」
「 009だから さ。 身体 ・・・ 軽くないだろ? 」
「 だってジャンプ力は 」
「 縄跳びに使うジャンプ力は ― 009にプログラムされてないし 」
「 あははは ・・・ そりゃそうね〜〜〜 」
「 だ ろ? も〜〜 さんざん特訓されちゃったよ
< やればできるよっ あきらめちゃ だめっ > ってさ ・・・ 」
「 鬼コーチねえ ふふふ ・・・ さあ 朝ご飯よ 」
「 わい☆ ん? すばるは? 」
「 博士と裏山探訪? よ。 」
「 へえ? あ ぼくも手と顔、洗ってくる。 は〜〜〜 疲れたァ 」
お〜い すぴか〜〜 と 呼びつつ彼は出ていった。
「 ただいまあ〜〜〜 あけて〜 おか〜さん 」
キッチンの勝手口の外で すばるの声が聞こえる。
「 あらら ・・・ はいはい 今あけるわ。 お帰りなさい〜〜 」
「 ただいま〜〜〜 ほら〜〜 もみじ〜〜〜 」
すばるは 両手に抱えてきた紅葉を差し出した。
「 あら キレイ ! すばるが集めてくれたの? 」
「 うんっ あとね〜〜 どんぐり とかね〜〜 ひろってね〜〜
りすさんのおうちにプレゼントしてきたんだ〜〜 」
「 ・・・ 裏山にリスさんがいるの?? 」
「 いるよ〜〜 僕 お友達だもん☆ で ね〜〜 おうちにくばってきた〜 」
「 すばるは巣の場所をよく知っているな 」
博士が後ろでにこにこしている。
「 そうなんですか? 」
「 うむ。 裏山を一緒に探検していたのだが すばるはどこにどんな木が
あるか 小鳥の巣やリスの巣の位置なんかもよ〜く知っていたよ。 」
「 へえ〜〜〜 裏山の ねえ 」
「 僕〜〜 すぴかとたんけんしてるから。 リスさんはおともだちさ 」
「 そうなの。 リスさん、きっとびっくりよ 」
「 えへへ そうかなあ〜 」
「 そうよ〜 さあ 手を洗ってらっしゃい。 朝ご飯にしましょ 」
「 わい♪ おじ〜ちゃま いっしょしよ? 」
すばるはぱたぱた走っていった。
「 おお 今ゆくよ。 ふふ・・・ 裏山をあちこち駆けまわったからなあ〜
朝ごはんはたんと食べるだろうなあ 」
「 ありがとうございます。 博士のお好きなチーズいりオムレツですわ 」
「 そりゃいいな。 おっと手を洗ってウガイ じゃな 」
博士もすばるを追って バス・ルームに足を速めた。
「 ごちそ〜さまでした〜 」
朝陽いっぱいのキッチンで にこにこ笑顔が声を揃えた。
「 あ〜 おいしいかったァ〜 アタシね〜 ウチのオムレツ、だいすき〜〜 」
「 僕も! あまくておいし〜〜 」
「 え 甘かったかい? 」
「 おと〜さん。 すばるってば〜 オムレツにじゃむ、のっけてた 」
「 あ そうか。 サラダも美味しかったよね。 」
「 サラダ菜はね すぴかが摘んでくれたの。 すぴかはおいしそうな
お野菜を選ぶの、上手ね 」
「 えへへへ〜〜〜 」
「 すばるは リスさんにドングリ、差し入れてきたんですって 」
「 えへへ 」
「 今朝は温かいなあ。 ヒーターを入れたのかい? 」
「 いいえぇ ふふふ さっきね、頑張って窓ガラスの掃除したんです。
だから ほら・・・ お日様が 」
「「 わあ〜〜〜 ホントだあ 〜〜 」」
「 お日様ってさ 最高にあったかいよね 」
ジョーは コドモたちの間で笑っている。
「「 うんっ 」 」
「 あ でも さ。 夜には ― コタツ が ほしいなあ〜 」
「「 さんせい〜〜 おとうさんっ 」」
「 はいはい 」
あははは ・・・ 皆が声をあげて笑う。
ウチ が いっちばん。
暑い夏の日 も 寒い冬の日 も 皆が集まる ウチが いちばん さ。
********** おまけ ********
「 すばる! たいへん〜〜〜 」
「 ? え なに すぴか? 」
すばるは突然 呼び止められてびっくり仰天してしまった。
学校帰り、すぴかが校門で弟を待っていたのだ。
しまむらすぴかさん は いつもとっとと下校する。
校庭遊びのない日は お友達と公園で遊ぶのだ。
一方 相変わらず しまむらすばる君は の〜んびりした足取りで出てきた。
「 すばる! 明日! あしたなんだっ 」
「 あした? あしたは明日だよ? 」
「 だから! 明日! おか〜さん おたんじょうび だよっ ! 」
「 あ。 ・・・どうしよ〜〜 忘れてたあ ・・ 」
「 すばる・・・ お小遣い ある? 」
「 僕? ・・・ 今月のは時刻表、買っちゃった ・・・ 」
「 アタシも もうないんだ〜〜 」
「「 どうしよう 〜〜〜 」」
「 肩 たたき券 にする? 」
「 おか〜さん 肩 こらないじゃん 」
「 じゃ お皿あらい券 ? 」
「 それ お父さんの仕事じゃん 」
「 う〜〜〜 ど〜しよ〜〜〜〜 」
「 おじいちゃまに相談しよう! 」
「 へえ たまにはイイコトいうね すばる 」
「 たまには じゃないもん 」
「 へ〜〜? じゃ おじいちゃまにそうだん〜〜〜 かえろっ 」
だ ・・・ !! すぴかは猛然とダッシュした。
「 あ〜〜〜 すぴか〜〜〜 待ってよぉ〜〜〜 」
すばるは慌てて 姉の後を追いかけていった。
「 は〜〜ん? プレゼントねえ 」
チビ達のハナシを聞いて 博士は笑いをこらえつつ首を捻ってみせた。
「 そ! ど〜したらいい〜 おじいちゃま 」
「 そうさなあ ・・・ お母さんの好きなものはなにかな? 」
「 好きなもの? う〜〜ん ・・・ ? 」
「 おと〜さん! お母さんが好きなのは お父さんだよ〜 僕 知ってるもん 」
「 すばる。 ばっかじゃない? お父さんをプレゼント できる? 」
「 ・・・ う〜〜ん ・・・ あ お花だ! 」
「 お花? あ〜 そうだね〜 お母さん、お花 好きだよ、おじいちゃま! 」
「 ほう? そうか。 よ〜し それじゃあな 」
「 なに おじいちゃま? 」
「 なに〜〜? 」
「 こっちへおいで。 秘密の相談じゃ 」
「「 なになに? 」」
双子は博士にぴったりくっついた。
― その日の夕方、 チビ達は博士と一緒にこっそり出掛けた。
そして 海岸の方まで降りていった。
冬の夕方、 冷たい風が吹いている・・・
「 ・・・? なんかいいにおい、するね? 」
「 ふんふ〜〜ん ほんとだ。 なに? 」
マフラーの中で 二人はお鼻をひくひくさせている。
「 気が付いたかな? ほら ・・・そこにクリーム色の小さな花があるだろう?
その香りさ 」
「 え〜〜 ・・・ くんくん ・・・ あ いいにおい〜〜 」
「 くんくん〜〜 あま〜〜いにおい♪ 」
「 これはな 水仙 というんじゃ。 お前たちのお母さんが好きな花さ。 」
「 これ? じゃ ・・ これ もらってもいいかな? 」
すぴかが手を伸ばした。
「 すぴか。 とったらすぐにかれちゃうよ〜〜 」
「 でも お母さんに ・・・ おたんじょうび〜〜 」
「 う〜〜ん ・・・ 」
「 ふふふ 千切らずにな ― こうして ・・・ 」
「 わ ・・・ おじいちゃま すごい〜〜 」
「 ・・・ すご・・・い 」
「 その鉢を持ってきておくれ。 」
「 うん! 」
すぴかとすばるは 博士に手伝ってもらい 海岸の窪地に生えていた水仙を
そ〜〜〜っと球根からり起こし 鉢植にした。
その年 フランソワーズは誕生日にみっつのプレゼントを受け取った。
ガーネットのピアス。 これは ジョーから。
「 これなら レッスン中も一緒だよね 」
ゴールドの飾りピン 一対。 これは 博士から。
「 いつも一緒じゃ これはコドモ達だよ 」
水仙の鉢植え。
「「 おか〜〜さん おたんじょうび おめでと〜〜〜 」」
フランソワーズは みっつを抱きしめ なにも言えなかった。
赤いピアスと金のピンは いつも003と共にあった。
― そして 鉢植えでこの邸にやってきた水仙は
やがて 庭中に広がり 年毎に早春を告げるようになった。
******************************** Fin.
******************************
Last updated : 01,23,2018.
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************** ひと言 ************
あ 明日 ( 1/24 ) って フランちゃんのお誕生日じゃん〜〜
って 書いてて気がつきまして ・・・ (*_*;
< オマケ> をつけました〜〜
フランちゃ〜〜〜ん はぴば♪♪♪